環境に配慮した印刷:FSC認証・ベジタブルインキとは?
はじめに
企業のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが重視される中、印刷物においても環境への配慮が求められています。「環境に配慮した印刷」と一言で言っても、FSC認証紙の使用、ベジタブルインキの採用、製造工程でのCO2削減など、様々な側面があります。
この記事では、環境に配慮した印刷の基本的な考え方から、具体的な手法、導入メリットまでを解説します。サステナブルな印刷を検討されている企業の担当者様や、環境問題に関心のある方々にとって、参考になる情報をお届けします。
1. 環境に配慮した印刷とは
環境に配慮した印刷とは、印刷物のライフサイクル全体(原材料調達から製造、使用、廃棄まで)において、環境負荷を低減する取り組みです。具体的には、以下のような側面があります。
環境に配慮した印刷の主な側面
- 原材料の調達:持続可能な森林管理から生産された紙の使用
- 印刷工程:環境負荷の少ないインキや薬品の使用、省エネルギー製造
- 廃棄・リサイクル:リサイクルしやすい設計、廃棄時の環境負荷低減
これらの取り組みは、地球環境の保全だけでなく、企業のブランドイメージ向上や、環境意識の高い消費者からの支持獲得にもつながります。
2. FSC認証紙とは
FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)認証紙は、環境に配慮した印刷の代表的な取り組みの一つです。
FSC認証の概要
FSCは国際的な非営利団体で、責任ある森林管理を推進するための認証制度を運営しています。FSC認証紙とは、この団体が定める基準に基づいて適切に管理された森林から生産された木材を原料とする紙のことです。
FSC認証の種類
FSC認証には主に以下の3種類があります。
- FSC 100%:原材料のすべてがFSC認証林から調達された木材
- FSC ミックス:FSC認証材、管理された原材料、リサイクル材を混合
- FSC リサイクル:原材料の全てがリサイクル材
FSC認証紙を使用するメリット
FSC認証紙を使用することで、以下のようなメリットがあります。
- 森林保全への貢献をアピールできる
- 環境に配慮した企業イメージの向上
- SDGsへの取り組みとして評価される
- 環境調達基準を持つ企業との取引で優位性を持つ
3. ベジタブルインキとは
ベジタブルインキ(植物油インキ)は、従来の石油系溶剤の代わりに、大豆油や亜麻仁油などの植物油を使用したインキです。
ベジタブルインキの特徴
ベジタブルインキには以下のような特徴があります。
- 再生可能な植物資源を原料としている
- VOC(揮発性有機化合物)の排出量が少ない
- 印刷物のリサイクル性が高い
- 鮮やかな発色と優れた印刷品質
ベジタブルインキの種類
ベジタブルインキには、使用される植物油の種類や含有率によって、いくつかの種類があります。
- 大豆油インキ:大豆油を主成分としたインキ
- ノンVOCインキ:VOCを含まない、または極めて少ないインキ
- バイオマスインキ:バイオマス資源由来の成分を一定以上含むインキ
ベジタブルインキを使用するメリット
ベジタブルインキを使用することで、以下のようなメリットがあります。
- 作業環境の改善(臭気や有害物質の低減)
- 石油資源への依存度低減
- 印刷物の安全性向上(食品パッケージなどに適している)
- 環境配慮型製品としてのアピールポイントになる
4. その他の環境配慮型印刷技術
FSC認証紙やベジタブルインキ以外にも、様々な環境配慮型印刷技術があります。
水なし印刷
従来のオフセット印刷では、湿し水と呼ばれる水溶液を使用しますが、水なし印刷はこれを使用しない技術です。
メリット:
- 水資源の節約
- 廃液の削減
- 高精細な印刷品質
- 色調の安定性向上
デジタル印刷
版を使わずに直接印刷するデジタル印刷も、環境負荷低減の観点から注目されています。
メリット:
- 版材や製版工程で使用する化学物質の削減
- 必要な部数だけ印刷できるため、廃棄ロスの削減
- 在庫を持たないオンデマンド印刷が可能
- バリアブル印刷による効果的なコミュニケーション
環境配慮型の製本・加工
印刷だけでなく、製本や加工工程においても環境に配慮した技術が開発されています。
- 無線綴じの接着剤:環境負荷の少ない水性接着剤の使用
- ハイブリッドUV印刷:省エネルギーで環境負荷の少ないUV硬化技術
- プラスチック代替素材:ラミネートやコーティングにバイオマス素材を使用
5. 環境配慮型印刷の導入事例
実際に環境配慮型印刷を導入し、成果を上げている企業の事例を紹介します。
事例1:食品メーカーA社のパッケージ
A社は、主力商品のパッケージにFSC認証紙とバイオマスインキを採用。環境に配慮した包装材として消費者からの評価が高まり、SNSでの話題性も獲得。結果として、前年比15%の売上増加を達成しました。
事例2:アパレルブランドB社のカタログ
B社は、シーズンカタログにFSCリサイクル認証紙と水なし印刷を採用。同時に、必要最小限の部数を印刷し、デジタルカタログとの連携を強化。紙の使用量を前年比40%削減しながらも、顧客満足度は維持することに成功しました。
事例3:化粧品メーカーC社の商品説明書
C社は、全商品の説明書をFSC認証紙とベジタブルインキで印刷。さらに、QRコードを活用して詳細情報をウェブに誘導することで、紙面のコンパクト化を実現。環境への配慮と情報提供の充実を両立させました。
6. 環境配慮型印刷の導入ステップ
環境配慮型印刷の導入を検討されている企業向けに、具体的な導入ステップを紹介します。
Step 1: 現状分析と目標設定
まずは、現在の印刷物の環境負荷を分析し、改善目標を設定します。
- 使用している紙の種類と量
- 印刷方式とインキの種類
- 廃棄・リサイクルの状況
- 改善によって期待される効果(CO2削減量など)
Step 2: 適切な環境配慮型印刷の選択
印刷物の用途や要件に合わせて、適切な環境配慮型印刷を選択します。
- FSC認証紙の種類(100%、ミックス、リサイクル)
- インキの種類(ベジタブルインキ、ノンVOCインキなど)
- 印刷方式(水なし印刷、デジタル印刷など)
- 製本・加工方法
Step 3: 印刷会社の選定と協力体制の構築
環境配慮型印刷に対応している印刷会社を選定し、協力体制を構築します。
- 環境認証(ISO14001など)の取得状況
- 環境配慮型印刷の実績と知見
- コスト面での提案力
- 長期的なパートナーシップの可能性
Step 4: 効果測定と情報発信
環境配慮型印刷の導入効果を測定し、ステークホルダーに情報発信します。
- 環境負荷低減効果の定量化(CO2削減量など)
- 印刷物への環境ラベル表示
- CSRレポートやウェブサイトでの情報発信
- 社内外への啓発活動
7. 環境配慮型印刷のコストと投資対効果
環境配慮型印刷は、従来の印刷と比較してコストが高くなる場合がありますが、総合的な投資対効果を考えることが重要です。
コスト増加要因
- FSC認証紙は一般的な紙より5〜15%程度高価
- ベジタブルインキは従来のインキより若干高価
- 特殊な印刷技術による追加コスト
コスト削減・付加価値要因
- 紙の使用量削減による材料費の節約
- デジタル連携による印刷部数の最適化
- 環境配慮型製品としてのブランド価値向上
- 環境意識の高い顧客からの支持獲得
- SDGs達成への貢献としての企業価値向上
まとめ:持続可能な社会に向けた印刷の役割
環境に配慮した印刷は、単なるコスト増加要因ではなく、企業の社会的責任を果たし、持続可能な社会の実現に貢献する重要な取り組みです。FSC認証紙やベジタブルインキの採用、水なし印刷やデジタル印刷の活用など、様々な選択肢があります。
印刷物のライフサイクル全体を見渡し、環境負荷を低減する取り組みを進めることで、地球環境の保全に貢献するとともに、企業のブランド価値向上にもつながります。
当社では、環境配慮型印刷に関するコンサルティングや、最適な印刷方法のご提案も行っております。持続可能な社会の実現に向けて、印刷の側面からサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。


